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鬱くしき覚醒 水瀬伊織

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(舞台『昏き星、遠い月』。伊織演じるノエルは、 姉のアレクサンドラと共に、追手から逃げている……)
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虫けら風情が、お姉さまを殺そうとするなんて……。 身の程知らずもいいところね。
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大丈夫、心配しなくてもいいわ。穢い手で、 お姉さまに触れさせたりなんてしないから……フフッ。
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お疲れ様、伊織。熱演だったな! スタッフさん達も絶賛してたよ。
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……。
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伊織? どうかしたのか?
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えっ? い、いたのねプロデューサー。 私に何か用?
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……もしかして、まだ役が残ってるのか? なんだかまだ、雰囲気がノエルっぽいというか……。
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なに寝ぼけたこと言ってるの? ……って、言いたいところなんだけど。そのとおりよ。
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私とノエルって、似てるのかしら? 思った以上に感情移入しちゃってるみたい。
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そのせいか、何度お芝居をしても 「本当にあれでよかったの?」って思うのよね。
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「ノエルが望んだ姿を、うまく表現できたのかしら」 って。
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ノエルが望んだ姿か……。
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人間の時は体が弱くて、お姉さまに頼りきりで。 周りの人にも、申し訳なさを感じていたと思うの。
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ヴァンパイアになったのは、事故みたいなものだけど。 ノエルとしては、きっと違ったのよね。
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だって、望んでいたものが手に入ったんですもの。 これでやっと、自分も強くなれる。
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そして、大切な人を守れる……。 それがたとえ、ヴァンパイアの力だとしてもね。
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ヴァンパイアになったのは不幸だけど、 ノエル自身にとっては、むしろ喜ばしい事だった……。
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伊織は、そう言いたいのか?
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ええ。永遠の命がどれだけ辛いのかはわからないけど。 でもアレクサンドラとずっと一緒にいられるでしょ?
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それって、ノエルにとっては 幸せなんじゃないかしら……って。
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人間では手に入らなかったものが、ヴァンパイアに なった事で叶えられた……なんとも皮肉な話だな。
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でもな、伊織…… 「ヴァンパイアだって、幸せになっていいはずだっ!」
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ちょっ!? 驚かせないでよ、もう!
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……はあ。アンタと話したら、 急に現実に戻ってきた気がするわ。
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もし伊織がヴァンパイアになったら、 俺の血をわけてあげるから! 安心してくれ!
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アンタの血なんて要らないわよ! ふざけたこと 言ってないで、さっさと仕事に戻りなさーいっ!
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