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(映画『誰ソ彼ノ淵』の撮影中。今日は難しいシーンの
撮影という事もあって、現場の空気は張り詰めている)
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(そんな中、志保の演技に、監督から細かいダメ出しが
続く。志保も、かなり苦戦しているようだ……)
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ううん、ぶっきらぼうな感じじゃなくて、
もう少し意識して……。
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志保、少し休憩したらどうだ?
監督さん達も、お昼にするみたいだし……。
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すみません。今、話しかけられたくないんです。
さっきのテイクの振り返りをしてるので。
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「諦めて、ここで死んでください」
……ちょっと違うかな。はぁ……。
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上手くいかないのは、疲れもあるんじゃないか。
少しだけ、気分転換しよう。
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プロデューサーさん。私が、厳しい
ダメ出しで落ち込んでると思ってるんですか?
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だとしたら、違います。
私は、自分の演技のつたなさにがっかりしてるんです。
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監督さんの指摘が正しいことくらい、わかってます。
私はまだ、演技の引き出しが少なすぎる。
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演技の引き出しをふやすには、
いろいろ経験が足りていないってことも……。
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それもあるけど、今回は特殊な役だからな。役柄の
ためとはいえ、人を傷つけるわけにはいかないだろう?
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大丈夫。やり直すごとに、ぐっと良くなってるよ。
志保への演技指導に熱が入るのは、期待の表れだ。
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監督も、志保ならできるって信じてるんだ。
当然、俺も信じてるよ。
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焦らずに、言われた事をひとつずつ考えていこう。
難しい役でも、志保ならきっと演じきれるさ。
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わかりました。すこし休憩します。
……私も、すこし焦っていたかもしれませんし。
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プロデューサーさん。
その……ありがとうございました。
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(そう言った志保の表情は、少しだけ晴れていた。
この分なら、次はきっと大丈夫だろう)