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(今日は日曜。レッスンは午前中で終わったが、
桃子は今日も残っているみたいだ。話を聞いてみるか)
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あ、お兄ちゃん。お疲れさま。
なに? 桃子が残ってたらいけない?
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そうじゃないけど……
最近、いつも残ってるんだって?
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も、もう……何言ってるの? お兄ちゃん。
そんなの公演前なんだから、当たり前でしょ。
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けど、まだ本番まで2週間ある。レッスンだって、
そんなに根を詰めるほど切羽詰まってないだろ?
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それはそうだけど……でも、桃子の新曲公演だもん。
完璧にやりたいでしょ!
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完璧にやりたいなら、尚更きちんと管理しないと。
それとも、何か悩み事でもあるのか?
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お疲れさまです。
……プロデューサー。周防さんも。
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ふ、ふたりとも、どうかしたんですか?
もしかして、ケンカ……?
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いや、ケンカじゃないんだが……ちょうどよかった。
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実は、桃子が何か悩みがあるみたいなんだけど、
話してくれないんだ。
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なんと。それは一大事です。
周防さん、ぜひお話を聞かせてください。
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公演まで、あと2週間しかないもんね……。
桃子ちゃん、私たちで良ければ協力するよ!
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も、もう!
だから、そういうことじゃなくて……。
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周防さん……悩み相談の相手、
私ではダメでしょうか。しょんぼり。
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瑞希ちゃんがそんなこと言ったら、私なんかじゃ、
もっと頼りにならないかもしれないけど……うう。
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そ、そんなことないよ! ただ、えっと……桃子も、
なんて言えばいいのかよくわからなくて……。
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とにかく、この話はもうおしまい!
それじゃ、お疲れさまでした!
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あっ、桃子ちゃん! ……行っちゃいましたね。
ちょっと、しつこくしちゃったかなぁ……。
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ふたりになら、俺に相談するよりは話しやすいかと
思ったんだけど……巻き込んですまなかったな。
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いいえ。あの、相談ならいつでも乗りますから……
桃子ちゃんに伝えておいてもらえますか?
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私もです。うまく答えられるかは、
わかりませんが……算数なら、得意ですから。
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(桃子が家に帰りたがらない理由。
仲間にも話せない悩み。これは、やっぱり……)
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はぁ……帰るって言って出てきちゃったけど、
ちょっと早いな。どこで時間つぶそう……。
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あのまま控え室にいれば、宿題だってできたのに。
それもこれも、お兄ちゃんのせいなんだから!
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別に。……ただ私にも、そういう時はあったから。
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ええ。特に、これって理由はないんだけど、
なんだか家に居づらくて。
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志保さんちって……お父さん、いないんだよね……?
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知ってるかもだけど、うちはお父さんとお母さんが
いないの。だからおばあちゃんと暮らしてるんだけど。
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最近、お父さんとお母さんから連絡が来たんだ。
どっちかと一緒に暮らさないかって……。
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でもね。でも……桃子は、どっちかじゃやなの。
お父さんとお母さんと、3人でいっしょがいい……。
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桃子、どうしたらいいのかわからなくて。
……志保さんだったら、どうする?
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ねえ、桃子。それって本当に、
私やあなたが選ばなくちゃいけないことなの。
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プロデューサーさん、ちょうど良かった。
私たちの、相談に乗ってもらえますか。
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し、志保さん!
桃子が知りたいのは、志保さんの答えで……。
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ええ。だからまずは、プロデューサーさんに
先に聞いてみたほうがいいかと思って。
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その質問は、答える必要があるものなのかって。
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なるほど、両親のどっちにつくか、か。
確かに俺では、その質問には答えられないな。
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でも、そうだな。志保が言った「私達が答えるもの
なのかどうか」なら、俺なりに答えられるよ。
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よかった。……じゃあ、あとは
プロデューサーさんにまかせますね。
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桃子。私で良ければ、いつでも話は聞くから。
じゃあ、また明日。
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……お兄ちゃん。
志保さんて、そっけないけど優しいね。
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ああ。志保がいてくれて助かった。
……桃子。さっきは無神経な聞き方して、ごめんな。
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別に、お兄ちゃんのせいじゃないし。
桃子が、なんて言えばいいかわからなかっただけ。
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そういう……家の話とかされても、みんなだって
なんて言っていいのかわからないでしょ。だから。
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志保さんは、桃子と近いみたいだったから。
わかるかなって思ったんだけど……。
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そうか。けど、皆はともかく俺に遠慮しなくていいよ。
俺は桃子のプロデューサーなんだから。
73
でもそれは、アイドルのお仕事の話でしょ?
家のことは……。
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確かにアイドルの仕事は、
桃子の一部かもしれないよ。けど……。
75
周防桃子っていう女の子は、皆の前で「アイドルの
周防桃子」になるためにたくさん努力してる。だろ?
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普段の桃子が、アイドルの桃子を作ってる。
だから全然、関係なくはないよ。
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お兄ちゃん。……桃子が子役でお仕事してたころ、
いっぱいワガママ言ったって話したことあるでしょ。
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桃子は女優だからね。イヤな子の演技なんて、
すっごくカンタンだったよ。
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お仕事するのにぜんぜん関係ないいやなこと、
たくさん言ったから。みんなに嫌われてたと思う……。
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うん。……桃子は、どうしてそんな事したんだ?
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それは……ワガママを言ってみんなを困らせたら、
ふたりが迎えに来てくれるんじゃないかって……。
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で、でも! ぜんぜんそんなことなかったし、
桃子は芸能界を干されちゃったんだけどね。
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だから、女優をやってたころの桃子は、
すっごく子どもだったってこと。
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そうだな。
桃子は小さかったし、今でも子どもだもんな。
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だって、桃子が子どもなのは本当の事じゃないか。
それなのに、子どもにどちらか選ばせるのは、ずるい。
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桃子は子どもだけど、お父さんとお母さんは大人だ。
……大人なんだから、自分達で決めるべきなんだ。
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だからお父さんとお母さんが元に戻らなくても、
それは桃子のせいじゃない。ふたりの責任なんだ。
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選びたくない、選べない。どっちでもいいんだよ。
桃子が思った事が、桃子にとっての正解なんだから。
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10年ちょっとしか生きてないのに、ひとりで
たくさん頑張ったんだな。えらいぞ、桃子。
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冷えてきたな。桃子、そろそろ中に入ろうか?
帰るなら、送っていくし。
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そうか。……なあ桃子、考えたんだけど。
ご両親を、今度の公演に呼んでみないか?
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どうせ来ないよ。お父さんも、お母さんも……。
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そうかもしれないけど……
桃子の意思表示にはなるだろ?
103
アイドルは、桃子がいま、一番頑張っている事なんだ。
それを観にくるくらいの事も、できないなんて……。
104
ね、ねえ、お兄ちゃん。
……もしかして、怒ってる?
105
そうだな。ご両親にも事情があるんだろうけど……
桃子を巻き込む事に、俺は納得してないよ。
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それに俺だけじゃないぞ。桃子の事を好きな人達は皆、
桃子を傷つけられたら怒るんだ。覚えておいてくれ。
107
そう……なんだ。みんなも、怒るんだ。
ふーん……。
108
なあ、桃子。
今度の新曲、桃子にすごく似合ってると思う。
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『アイドル周防桃子』の、最高のステージを
ファンのみんなに見せてあげてほしい。……できるか?
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わかったよ。お兄ちゃんやファンのみんなに、
桃子がとびっきりの夢を見せてあげるよ!
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お兄ちゃん、お疲れさま。
チケット、用意しておいてくれた?
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ああ。……なあ桃子、
やっぱりご両親には、俺から連絡を……。
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おばあちゃんにしてもらうから大丈夫だよ。
お兄ちゃんだと、何か余計なこと言いそうだし。
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みんなにも、心配かけちゃってごめんなさい。
でも、桃子はもう大丈夫だから。
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公演まで、あと2週間かぁ……
最後までがんばろうね、桃子ちゃん♪
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うん! みんな、しっかり桃子についてきてね!