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(公演まで、あと2週間。今日はローカル局の番組に
出演するため、みんなで金沢に向かう事になっている)
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(けど肝心の紬が、今朝からずっと
浮かない顔をしているような……)
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プロデューサー、紬さんどうかしたのかねぇ。
なんだか、元気がない気がするべさ。
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うん。昨日のレッスンまでは、
いつもどおりの紬って感じだったんだけどな……?
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そうですね……。凱旋公演ですし、本人は、
何か思うところがあるのやもしれません。
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とはいえ、金沢には仕事で何度か来てたし……
そこまで緊張するほどではないと思うんだけど。
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はーい! 今日は我らが紬ちゃんの地元!
金沢の美味しいお店を巡っちゃいますよ~!
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地元ですが、近ごろお仕事でしか帰っていないので……
金沢の味、楽しみにしていました。
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じゃあ、さっそく最初のお店に……
あ、あそこ「和スイーツ専門店」って書いてあるよ!
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あ……あのお店は、私も初めて見ましたね。
最近できたのでしょうか?
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ありさの取材によると、半年前にオープンしたとか!
抹茶を使ったお菓子が人気みたいですよ~♪
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半年……そうでしたか。
そんなに前からあったのですね。
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あ~、アタシもうお腹ペコペコ!
さっそく行ってみよ~!
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(仕事上は、普段どおりの紬に見えるな。
このままいけば、大丈夫そうかな……?)
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続いては、紬さんのおすすめの甘味処だよぉ。
なんだかとっても、落ち着くお店だねぇ。
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奥から甘い、いい香りが……。
ふふ、食欲をそそられますね。
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はい、お久しぶりです。
えっと、こちらお店の二代目の娘さんで……。
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ふふ、実は少し前に父から店を継いだがや。
今はうちが三代目なんよ。
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えっ、そうだったんですか……!
すみません、その、お祝いもせず……!
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あら、こんなテレビで取り上げてくれるなんて
一番のお祝いやわ。来てくれてあんやとね。
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ふむ。めにゅーもたくさんありますね。
紬のおすすめは、どの甘味でしょうか?
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私のおすすめは……
その、特製あんみつは、まだありますか?
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ええ。もちろん。
父から受け継いだ味は、変えとらんよ。
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そうですか。それではぜひ、みなさんにもそちらを……
私の……思い出の味なんです。
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抹茶ケーキにあんみつ、浜焼きにおでん……
うう、さすがにちょっとお腹いっぱいかも……。
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あたしも、ちょっこし苦しくなってきたねぇ。
次はどんなお店だったかなぁ。
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次は、金箔を使ったお料理の店ですね。
この道をもう少し行った先に……あ。
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あ、いえ。以前はこちらに、
お土産屋さんがあったはずなのですが……。
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ああ、ここは少し前に閉店したんですよ。
店主が引退して、後継ぎもいなかったとかで。
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品揃えがとてもよく、こちらでしか手に入らない物が、
たくさんあったのですが……残念です。
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(収録のラストは金沢といえばのスポット、兼六園だ。
この中だけでも、こんなに茶店の数があるんだな……)
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金沢、満喫しちゃいました~!
ありさ、もう満腹です……!
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アタシも! でも、まだまだ美味しそうなお店、
たくさんあったよね~。
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かれーにお寿司に治部煮……
また公演で来たときに、りべんじといきたいものです。
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はい、ぜひまたライブの時に……。次はこの地で
みなさんとお会いできること、楽しみにしています!
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カーット! これで本日は終了です!
みなさんお疲れさまでしたー!
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みんな、お疲れ様。
食レポ、すごくよかったよ!
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本当かい? あたしは最後のほう、
食べるだけで精いっぱいだったよぉ。
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腹ごなしに、ちょっこし散歩でもしようかねえ。
プロデューサー、まだ時間あるかい?
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ああ。約束通り、観光の時間を作ってあるぞ!
ただ紬はちょっと、自宅に戻る用事があるそうだ。
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すみません。すぐ済むと思いますので、
戻りましたらみなさんの案内をさせてください。
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急がなくて大丈夫だよ、紬! アタシも、
まだお腹苦しいし……ひなたと散歩してるよ。
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あ、ありさも行きます!
貴音さんは、どうしますか?
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それでは……私は、先程周りきれなかった茶店を、
覗いて参ります。
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た、貴音お嬢さんはまだ食べられるのかい?
すごいねぇ……!
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それじゃ、15時にまたここに集合しよう。
みんな、あまり遅くならないようにな。
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はっ! プロデューサー……!
えっと、み、みなさんはどこに……。
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いったん解散したよ。
それより、疲れてるのか? ボーッとして……
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いえ、その……
少し、食べ過ぎてしまったと思いまして。
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はは、そうだな。
でも久し振りに、金沢の味を満喫できたんじゃないか?
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そう、ですね……。
終始、どこか不思議な感覚でしたが。
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見知った街並みを歩いているはずなのに、
まるで余所者のような気持ちといいますか……。
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地元のことなのに、知らなかったことや、
気づいていなかったことが多くて。
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ここを出てアイドルになってから、
だいぶ時間も経ったしな。
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ええ。もう私は、この土地の人間ではないということ
なのでしょう。戻りたくても、戻れないくらいには。
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そうですね……。将来的に、戻るべきかもしれない
……とは、少し考えていました。
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両親は、何も。
ただ、その……進路調査票を書かなくてはならなくて。
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学校で「将来の進路を」と言われて、
すぐさま書けなかったのです。『アイドル』、と。
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私は、アイドルであることに……まだどこか、
夢見心地のままだったのかもしれません。
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はい。東京にいるアイドルの自分は、夢の延長で。
現実の自分は、まだ金沢の高校生でいるような……。
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私は、幼い頃からずっとこの街で暮らしていて。
大人になったら、きっと家を継いで……。
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そのまま、ここで
一生を終えるのだと思っていましたから。
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私にとっては、ちょっとどころではありません。
未来が、全部変わってしまったのですから。
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そのことに……
ここに来て、改めて気がつかされたんです。
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私の場所だったはずのここは、
私がいなくても、時間が過ぎていて……。
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私はといえば……もう、
後戻りできないところまで進んでしまったのだと。
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そうだな。
以前の紬には、もう戻れないかもしれない。
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でも、紬はまだ17歳だ。
これからまだ、いろんな人生を選べると思う。
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それこそ、普通の高校生に戻ることだって。
家を継ぐことだって、やろうと思えばできる。
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でも、そうだな。紬が金沢に戻ったら、
俺はまた、紬をスカウトしに来るかもしれないな。
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たとえ後戻りができるとしても、したくない。
紬をアイドルにしたこと、後悔なんてしてないから。
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紬も、そう思っていてくれてたら
いいなと思うんだけど……。
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謙虚なのは良いと思いますが、担当アイドルの
気持ちくらい、理解していただかないと困ります。
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そうか。なら、もう一度
スカウトには来なくても良さそうかな?
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そもそも私は、アイドルを辞めるだなんて
一言も言ってません。
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いや、なんでも。
紬がアイドルを続けてくれるなら、よかったよ。
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はい。凱旋公演も近いというのに、
感傷に浸ってる暇など、ありませんから。
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紬はこの後、実家に行くんだろ?
一緒に行かなくて大丈夫か?
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ええ。今日は学校の用事で少し寄るだけですから、
大丈夫です。
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おお、紬。
もう終わったげん。どうしたか?
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お、進路調査票か。懐かしいなぁ。
どれ、貸してみまっし。
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……うん。
サインするのはここだけでいいがけ?
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ほんなの、
紬が東京に出て行ったときから、覚悟しとったよ。
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じゃ、何も問題ないじー。
……はい、サインしたげん。
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お父さん……あんやと。
ライブ頑張るから、ちゃんと見とってね。