1
(今日は収録スタジオを押さえてのレコーディングだ。
直前の千早の収録がつつがなく終わって……)
2
(次は、ジュリアと静香の番だ。
ふたりとも、頑張れよ……!)
3
チハ、お疲れ!
今度の曲もいい感じじゃないか。
6
ふたりは、例の新ユニットの収録ね。
できれば聞いていきたかったけれど……。
7
あいにく次の仕事まで時間がなくて。
でも、どんな歌になるのか楽しみにしているわ。
8
は、はい……あの、ありがとうございますっ!
私、精いっぱい頑張ります……!
9
ええ、頑張って。……ジュリアは明日、一緒に
撮影の仕事だったわね。よければ話を聞かせて。
10
ああ、なんなら歌も聞かせるぜ。
へへっ、じゃあ明日な!
12
千早さんが……
期待してくれてるなんて……!
13
ますます気合い入れていかないとな。
よし、はじめようぜ、プロデューサー!
14
(こうして、ふたりのレコーディングが始まった。
これまでどおり順調に……と、思っていたのだが……)
15
ストップ! う~ん……。
シズ、なんか噛み合ってなくないか?
16
きっと私の歌が、ジュリアさんの歌に
負けてしまってるんですよね。ごめんなさい……。
17
いや、シズが謝るようなことじゃない。ウチらは
デュオなんだ。お互いに合わせていかないとな。
18
次はもうちょっと、お互いの声を意識してみようぜ。
……よし、もう一回、頭から!
19
(しかし次のテイクも、その次のテイクも……)
22
プロデューサー、
あんたは今のテイク、どう思った?
23
どう思うもなにも……。
ふたりとも、まるで納得してない顔だよな?
24
納得できるわけありません! 私に引きずられて、
ジュリアさんの歌まで弱々しくなって。こんなの……!
25
いや、たぶん逆だ。あたしの歌のアラさが、
シズのメロディを狂わせちまってる気がする。
27
とりあえず休憩しますか? 今日中に録れなくても、
帳尻は合わせられますから……。
28
そうですね……。
よし、ふたりとも。いったん休憩にしよう。
30
(……まいったな。ここに来て、ふたりの歌い方が
さっぱり噛み合わなくなってしまった)
31
(ピアノの経験に裏打ちされた、静香の美しい歌声と、
ジュリアの、本能からの力強い歌声……)
32
(うまく噛み合えば、お互いに補い合ってどこまでも
伸びていく。けど、ぶつかってしまったら……)
36
あの……プロデューサー。
レコーディングの時間、延長できませんか?
37
スタジオには、この後の予定がもう入ってる。
ちょっと……無理かな。
39
それに、仮に延長できたとしても、
このまま漠然と続けて良くなるとは思えないんだ。
40
すまない、俺の判断ミスだよな。今回の歌、ふたりとも
しっかりマスターしてくれたと思ったんだけど……。
41
ひとつの歌として、まだ噛み合ってなかったんだ。
『二人の歌』には、なってなかったんだろう。
43
かもな。あたしの歌、シズの歌にはできてた。
お互いに好きに歌って、気持ちよかったよ。でも……。
44
それだけじゃダメなんだ。ふたりでどう歌うか……。
どんなロックにするか、イメージを合わせないと。
46
でもスケジュール的に、録り直しは難しい。
それで、さっきスタッフに言われたんだが……。
47
一応、これまでに録ったテイクの中から、合いそうな
ところを摘んでMIXする、という方法もある。
48
そ、それは……。そうでしょうね。
レコーディングって、そういうものですから。
49
もちろん、イヤですけど。でもスケジュールが
動かせないなら、とりあえずは……。
52
ツギハギするったって、完成形が見えてないんだ。
どう歌うか決まってないのに、摘みようがないだろ?
54
そうだよな……。よし、これから掛け合って、
何とかもう1回、収録させてもらう機会を作るよ。
55
収録スタッフとスタジオの都合的に、現実的なのは……
明後日の夜、2、3テイク程度になると思う。
56
明後日……って、すぐじゃないですか!?
それも2、3テイクだけ?
57
そうだよな、時間もチャンスもほとんどない。
でも……今はこれしか手がなさそうだ。
58
ジュリア、静香。明後日の夜までに
『二人の歌』を仕上げてくれないか?
59
ああ、やり直せるなら、それで充分だ!
今度こそ、ふたりでこの歌をモノにしてみせる!
63
私は……できるなんて、軽々しく……言えません。
だって、本当に時間がないし……。
64
まだ、どうすればいいかも全然……わからないし。
それにジュリアさん、明日……仕事って……。
65
ああ。でも、シズだって、
あきらめたくないだろ?
66
そんなの当たり前じゃないですか! 私だって、
ふたりできちんとこの曲に向き合いたいです!
67
でも……。
私、できるって……思えない……。
69
……静香、うまくできないならできないでいいんだ。
ただ、もう一回チャンスを作れるってだけで……。
72
(ジュリアと静香の実力に甘えて、任せっきりにして
しまった俺の落ち度だ。信頼とは別の問題なのに……)
73
(どうにか『二人の歌』にたどり着いてほしい。
……誰よりも当人たちが一番、そう思っているはずだ)