1
「極道たちが鎬を削る無法の時代。義理と人情は忘れ
去られて久しく、弱肉強食の理が人々を支配していた」
2
「魅梨音組は、戦前から七六五市にシマを持つ、
由緒正しい任俠組織であった。しかし……」
5
あっけないもんだね。人の命なんてさ
魅梨音組組長、たまはもらったよ。
6
おやぶん! 今の物音はいったい……!
えっ!? ……のりこ!?
8
……おやぶん! おやぶんーっ!
目を開けて、おやぶんーっ!!
9
「その年の9月、魅梨音組組長が就寝中を襲われ、
刺殺された。下手人は元魅梨音組構成員、福田のり子」
10
「日頃から木下組の後塵を拝していた魅梨音組にとって
この攻撃は、決定的なものとなった」
12
まだおやぶんの四十九日も
終わってないっていうのに、どうして……。
13
仕方ないよ。親分がいなくなった組と心中なんてして
られないもん。この世界じゃ、それが当たり前なの。
14
あれ? お嬢、あそこ。
誰か、寄っかかってるみたい。
16
あっ、倒れちゃった!?
だいじょうぶ? しっかりしてっ!
17
うん、こんなにうまいメシを食ったのは久しぶりだ!
ごちそうさん!
18
悪いね。介抱してもらった上に、
こんなごちそうまでいただいちゃってさ。
19
しょうがないでしょ。あのまま死なれたら、寝覚めが
悪いもん……。それで、うちにいったい何の用?
20
ああ。昔、こちらの親分さんに、ちょいとお世話に
なったんだ。近くに寄ったんで挨拶しようと思ってさ。
22
お父さん? ……へえ! まさか親分さんに、こんな
べっぴんな娘さんがいたなんてね。こいつはいいや。
23
おっと、自己紹介がまだだったよな。
……ちょいと軒先、お借りしてもいいかい?
24
御控えください。
私は旅のしがないものでござんす。御控えください。
26
ご当家、三尺三寸借りうけまして、
稼業、仁義を発します。
27
えっ、ええと……あ、ありがとうございます。
控えさせていただきます。
29
御挨拶、失礼さんでござんすが御免なさんせ。向かい
ましたる上さんと、今回初めてのお目通りでござんす。
30
日の本の端に生まれ落ち、産湯を出てから西へ東へ。
故郷と共に姓を捨て、ただ名をジュリアと発します。
31
ご賢察の通り、しがない根無し草にございます。
どうかお見知りおかれ、ご昵懇に願います。
32
え? う、うん……。
桃子は、周防桃子。その、よろしく。