1
そうか、親分はもう……しかし、なんだってまた。
2
殺されたんだ……やったのは、木下組ののりこだよ。
昔はうちの組に出入りして目をかけてもらってたのに。
4
……最近、この街に根を張った愚連隊。商売が上手で、
うちのシマを横取りして、みるみる大きくなったの。
5
近くの商店街、閉まってたでしょ。大きな工場を作るん
だって、木下組が強引に買い上げちゃったんだよ。
6
誰も表立って反対する人がいなくて。それで、
お父さんが反対運動の後ろ盾になってたんだけど……。
8
じゃあ今、魅梨音組は? 親分から盃をもらった若頭が
仇討ちして跡を継ぐ。それが倣いってもんだけど……。
9
みんな、出てっちゃったんだ。今のこの家には、
お嬢とたまきのふたりだけ。さびしいよ……。
10
仕方ないでしょ。今この街で木下組ににらまれたら、
やっていけないもん。縁を切った方が生きていけるよ。
11
……なあ、お嬢ちゃん。暫くあたしを、この家に
置いてくれないか。実はあたし、行くあてがないんだ。
12
ぜいたくは言わない。ただ雨露しのぐ屋根さえ
貸してもらえりゃあ、それで十二分。……どうだ?
13
じゅりあがいたら、にぎやかになるね! けど、
この家にいたいなら、じゅりあがたまきのこぶんだぞ!
14
はは、そいつは手厳しい。……じゃあ、そういう事で
いいよな? ひとつ、どうかよろしく頼みます。
17
ああ、しっかり片ぁつけてきたよ。
魅梨音組のヤツら、すっかりイモ引いてる。
19
大したもんだよ。この景色と、何億という儲け……
全部あんたのモノとはね。
20
あたしはね、ここから見下ろす街が好きなんだぁ。
あたしの生まれた街の景色とは、ずいぶん違うけどね。
22
あたしの故郷は、ここよりずっと北にある寒い土地でね
……痩せた大地にしがみつくように、みんな生きてた。
23
けど、りんごだけはよくとれてね。うちの窓から、
ずっと向こうまでりんご畑が広がってた。
24
その農園を代々守っていたのが、極道だった
うちのばあちゃんさ。昔かたぎの俠客だったよ。
26
でも、ある日、外国の人がやってきてね。いい儲け話が
あるなんて、耳ざわりのいいことを言ってたけど……。
27
みんな、いっぱい食わされたんだ。
りんご畑は、みんなハーブ畑になっちゃったのさ。
29
誰にも奪われない、あたしだけの街をつくる。
魅梨音組とは、きちんと話をつけなきゃいけないねぇ。
30
ご心配なく。手はずは整ってるよ。
もうすぐ、あの商店街はあんたのものだ。