3
プロデューサー、お疲れ様です。
定期公演のメンバー、全員揃ってます。
4
そうか、ありがとう。いや、定期公演の
話もしないとなんだけど、その前に……!
5
実は琴葉に、朝の連続ドラマの主要キャストとして
出演オファーが来たんだ!
7
朝の連続ドラマって……
半年ごとに新作が放送されてる、あの?
8
近現代を舞台にした大型ドラマシリーズで、
出演できるのは業界でも一握りと言われるあの……!?
9
そうだ。その次回作に、主人公の娘役として
出演してほしいっていうオファーが来たんだ。
10
そんな大きなお仕事が、オファーでですか?
琴葉さん、すごいです!
11
琴葉の比類なき演技力が、制作陣の目に
留まったのでしょう。真、素晴らしいことです。
12
さすが、田中さんですね。
おめでとうございます。
13
みんな、ありがとう……。
なんだか、信じられないけど……。
14
俺も、連絡をもらった時は驚いたよ。
でもこれは、琴葉の努力の賜物だと思う。
15
それで、肝心のオファーなんだけど。
引き受けて、問題ないか?
16
っ、はい! もちろんです!
私に、やらせてください!
17
わかった。定期公演の頃には、色々発表になっている
はずだ。このチャンスを物にできるよう、頑張ろう!
19
琴葉さん、公演もあって大変だと思いますけど、
がんばってくださいね! わたし、応援してます!
20
私もです! 毎朝琴葉さんのお芝居が観られるなんて、
なんだかワクワクしちゃいますね♪
21
ドラマを見られる日が待ち遠しいですね。
田中さんのご活躍、楽しみにしています。
22
琴葉なら、皆の期待に応えてくれる事でしょう。
全力で挑んできてください。
24
俺もしっかりサポートするから、
何かあればいつでも相談してくれ。
25
プロデューサー、ありがとうございます!
よろしくお願いします!
27
(今日はドラマのキャスト発表記者会見。琴葉は
錚々たる共演者達と、出番を待っているところだ)
28
(主演の檜山秋代さん、やっぱり素敵だな……。
綺麗なのはもちろん、お芝居も圧倒的で)
29
(他の俳優さん達も、ベテランの方々ばかり。
……私も、がんばらなくちゃ!)
30
うう、どうしよう、心臓がバクバクしてきた……。
だ、大丈夫。落ち着いて、深呼吸して…………。
31
今回の連続ドラマ『一世劇場』(いっせいげきじょう)
は、着物を仕立てる和裁士の女性が主人公です。
32
戦前から戦後をたくましく生き抜く姿を描くという事
ですが、主演としての意気込みをお願いいたします!
33
はい。初めて演じる役柄ですが、和裁士の方のご指導の
もと、細部までこだわり抜いて演じたいと思います。
34
ご覧いただく皆様の心に残る、素敵な作品になるよう
努めます。どうぞご期待ください。
35
ありがとうございます! それでは続きまして、主人公
の娘役を演じられる田中琴葉さん、お願いいたします!
36
は、はいっ! 田中琴葉です!
今回、初めて出演させていただきます!
37
ずっと作品を拝見してきたベテランの方々との共演で、
すごく緊張していますが……。
38
み、みなさんの足を引っ張らないように、
がんばります! よろしくお願いします……!
40
(緊張はしてたけど、初々しくて良い挨拶だったな。
この後は、記者の前で取材を兼ねた読み合わせだ)
41
この台詞、娘が初めて反発するシーンだから……
読み合わせの前に、檜山さんに確認してみようかな。
42
えっと……。
あっ、あの、すみません。少しいいでしょうか?
44
あの、このシーンの台詞なんですけど。どのくらい強く
演じればいいか迷っていて。よければご意見を……。
47
貴方、アイドルでしょ?
役をもらえたのって、それが理由だし。
48
アイドル枠は、若くて可愛ければいいだけだもの。
お芝居になんて、誰も期待してないから。
53
ちょっと、緊張してしまっただけで……。
すみません、気にしないでください。
56
(なんでもないようには、とても見えないけど……
今聞いたところで、答えてくれそうにないな)
59
琴葉さん、記者会見見ましたよ! 共演者のみなさんも
豪華でしたけど、琴葉さんもとっても素敵でした!
60
私も見ました! ベテランの人達に負けないくらい、
キラキラ輝いてましたね! 本当にすごいなぁ♪
62
琴葉、どうかしたのですか?
浮かない顔をしているようですが。
66
うん。はっきり、そう言われちゃって……。
だから、私の演技力には期待してないって。
67
そんな……。それじゃ、琴葉さんが
どんなにお芝居をがんばっても、意味がないんですか?
68
そんなはずはありません。
琴葉は、今回の役に選ばれたのですから。
69
でも……せっかくがんばろうとしてる時に、
「期待してない」なんて言われちゃったら……。
71
田中さん。ここはひとつ、プロデューサーに
相談してみてはいかがでしょう。
72
私も、そう思います。プロデューサーなら、
そのような事はないと……琴葉の実力だと仰るかと。
74
みんな、心配かけてごめんね。私は大丈夫だから……
明日から定期公演のレッスンだし、がんばろう!
77
「あの、お母さん。大事な話があるの」……。
こんな感じかな……。
78
あら、稽古前に自主練?
ずいぶん熱心だけど、何故?
79
それは……その。
私、お芝居が好きなんです。
80
だから、今回の役をいただけたのも、
演技で認められたんだと思って……うれしくて。
82
だから……もし、本当は違う理由だったとしても。
私ががんばらない理由には、ならないので。
84
ならいっそアイドルを辞めて、演技に専念したら?
86
俳優になればいいじゃない。
純粋に芝居だけを見てほしいなら、尚更。
87
そうすれば、誰も貴方を侮ったりしないと思うけど。
90
それじゃあ、今の感じでもう一度!
シーン13、お願いします!
91
(アイドルを……辞める……。
純粋に、お芝居だけを見てもらうために……)
92
(でも、私がアイドルじゃなかったとしたら……。
私は、このドラマに出られたのかな……?)
96
「あの、お母さん。大事な話があるの」……
あ、あれ? えっと、次は……。
97
あれ、台詞飛んじゃった? 台本はちゃんと
入れてきてくれないと困るんだよねぇ。
98
っ……すみませんっ!
もう一度お願いします!
99
何? あの子。ミスばっかりじゃん。
ったく、これだからアイドルは。
101
はぁ…………。あんな偉そうなこと言って、
なんにも上手くできないなんて……。
102
お芝居だけは、ちゃんとできると思ってたのに……
これじゃ、私……。
105
あ、プロデューサーから。
えっと……「今から迎えに行くよ」。
108
大丈夫です。それに、プロデューサーに
メッセージをもらって、うれしかったです。
109
私は、プロデューサーに
見つけてもらったんだって……思い出せたから。
111
っ……す、すみません。
私、ちょっとヘンですよね。
113
……先日は、なんでもないなんてごまかしたりして、
すみませんでした。
116
はい。あの時は混乱してしまって、
ちゃんと話せそうになくて……すみません。
118
少し、迷ったんじゃないか。
「アイドルを辞めようか」って。
120
隠さなくてもいい。一生懸命やっている事を
そんな風に言われたら、誰だって考えるだろうから。
121
今回、琴葉が選ばれた理由が「アイドルだから」……
というのは、可能性としてはゼロじゃない。
123
でもそれは、普段ドラマを観るのとは違うファン層
だったり、新しい風としての期待でしかない。
124
役柄として任せられた内容は、
それだけでこなせるほど簡単じゃないと思うよ。
126
……。プロデューサーは、
先日の会見の記事を、読みましたか?
127
ああ。スポーツ紙とか週刊誌とか……
ひと通り読んだと思う。それがどうかしたのか?
128
記事では、私の事も紹介されていましたよね。
『期待の新星』ってキャッチコピーで。
129
でも私は、そんな風に言ってもらえるような……
そんな、すごい人間なんかじゃないです。
130
本当の私は、うじうじしていて。
上手くできない事に落ち込んでばかりで……。
132
でも、そんな私を、プロデューサーは
アイドルにしてくれました。だから……。
133
だから私は、女優じゃなくて……
アイドルとして、がんばりたくって……。
134
……。
琴葉。ひとつ聞きたいんだけど……。
136
琴葉が今ここにいるのは、
『プロデューサー』への責任感からなのか?
138
そうじゃないです。
私は……私は、自分の意志で……。
140
私が、あのステージに立ちたいから!
自分がアイドルでいたいから、ここにいます!
141
うん。なら良かった。
……明日も、頑張ろうな!
143
(琴葉の瞳に、もう迷いの色はない。強い意志は
光となって、彼女を更に輝かせてくれるだろう)